シナリオライターP子の日記 其の九「タイミングの悪い女」
デビューして半年間、仕事のなかったP子は、ついに深夜ドラマにお呼びがかかった。なんでもメインライターの筆が遅く、ピンチヒッターとしての急なオファーであった。
電話があって翌日の打ち合わせに馳せ参じると、P子の他に同じように召集された新人ライターが三人いた。
全8話のテーマはおおよそ決まっていたが、プロットは無いに等しく、キャストさえあやふやなものであった。とにかく時間がない、ということだけ申し渡され、あやふやな引継ぎのまま解散された。
みんな目が点になっていたが、とにかく仕事がもらえた!ということで、やる気満々。P子も同様、ガッツが入った。
打ち合わせから帰ってそのままワープロの前に座り、朝まで打ち続けて1日で原稿をあげてしまった。
そのままFAXすればよかったのだが、「いやいや待てよ、締切りまで2日あるし、慌てないでじっくり推敲してから提出しよう」と、珍しく慎重になった。
P子が呑気でいる間に、他のライターがさっさと翌日に原稿を提出し、「あいつは早い!」と局内で評判になっていた。
結局P子は2日遅れで原稿を提出したのだが、たいした推敲も行なっていない。そんならさっさと提出しておけばよかった。
新人ライターはまず、早く原稿をあげること。P子のような凡人ライターは、早さで勝負するしかないのじゃ。
さて、こうして提出した原稿は、そこからまた、苦難の道を歩むことになるのであった……。
【ピンチヒッター】ドラマ制作において脚本家が何らかの理由で書けなくなった時、ピンチヒッターとして新人に声がかかることはよくある。そこで頭角をあらわし、プロデューサーの目に留まってブレイクする人もいる。